割烹料理にも欠かせない「香の物」。料理と「香道」の不思議な関係
割烹料亭や会席料理など、和食のコース料理に欠かせないのが香の物です。決して主役になることはありませんが、コースから外れることもない料理といっていいでしょう。実はこの香の物とはいわゆる漬物の総称となっています。今でこそ「漬物=香の物」とされていますが、ではなぜ漬物のことを香の物と呼ぶようになったのでしょうか。
1.香の物の起源は平安時代
いわゆる私たちが知る「漬物」にはさまざまな呼び名があります。香の物もその一つです。この香の物という呼称が使われ始めたのが、平安時代といわれています。当時貴族階級の間で流行していた遊びの一つに「香道」という遊びがあります。
これは目隠し(もしくは部屋を暗くして)をした状態で「香木」と呼ばれる木に熱を加え、漂ってくる香りでその木の名前を当てるというものです。まさに平安貴族が好みそうな、非常に優雅な遊びといえます。
この遊びに欠かせなかったものが「大根」。大根には口や鼻に着いた匂いを取る消臭作用があるといわれており、香道で一度鼻や口に残った香りをリセットするために用意されていました。しかし、時は平安時代、当然冷蔵庫のようなものはなく、ハウス栽培などもありません。大根が良いといわれても、大根が採れない季節には大根を食すことは難しい時代です。
そこで考えられたのが、大根を保存食として保管することで、大根を糠味噌とともに漬け込み長期保存をする方法でした。これが皆さんご存じの「沢庵漬け」です。平安貴族たちは香道のときに、この沢庵漬け(糠漬け)を用い、その呼び名を「香道で食すもの」ということで「香の物」と呼ぶようになりました。
そして当時の京都や大阪では、沢庵漬けはもちろん、漬物全般のことを「香の物」もしくは「お香々」などと呼ぶようになります。
2.割烹料理の漬物が香の物と呼ばれる理由とは?
平安貴族が漬物を香の物と呼んでいたのはご理解いただけたかと思います。では、なぜ割烹料亭やカウンター割烹で漬物ではなく香の物という呼び方が定着しているのでしょうか。これは、割烹料理の成り立ちに理由があります。
割烹料理の「割烹」を辞書で調べると、「肉を割き、烹る(にる)料理まとはその料理を提供する店」と出てきます。つまり割烹とは料理法のことで、特に和食の料理法ということになります。
そして時は江戸時代。江戸時代になると、江戸の街には深川めしや握り寿司といった、いわゆる「江戸料理」と呼ばれる食文化が生まれます。これに対して上方(京都や大阪のこと)で親しまれていた茶懐石料理や精進料理のことを「割烹」と呼ぶようになります。
当時の江戸と上方の関係を考えると、中心はやはり帝(天皇)があらせられるところが「上方」であり、江戸は庶民と武士の街でした。つまり江戸料理は庶民的な料理、そして上方からやってきた割烹は高級料理というイメージが一般的になりました。
この流れは明治・大正・昭和・平成を越えても変わることなく、「割烹=高級和食」というイメージにあり、現代においても割烹、会席料理、懐石料理などで出される漬物は、当時の上方の漬物の呼び方である「香の物」が定着したと考えられています。
3.現代の割烹料理における香の物は?
さて、現代の割烹における香の物は、主にコース料理の終盤にご飯ものと同時に数種類が盛り合わせのように出されるのが定番となっています。もちろんこのときの香の物は沢庵漬けに限らず、さまざまな種類の漬物を盛り合わせたケースが多いようです。
4.まとめ
平安時代の貴族遊びから生まれた香の物という呼称ですが、現代の割烹店でも当時と同様に食事の最後に口の中をすっきりさせるために提供されています。私たちは、そんないわゆる脇役である香の物にもこだわりを持っております。
割烹料理屋「佐々木」ではお客様のご希望をお伺いし、その日一番おいしい状態の旬の素材を、和食の技法でご提供いたします。もちろん香の物にもこだわりを持ってセレクトしております。家庭料理のような、それでいて高級感もある、そんな和食の奥深い世界をぜひ体感してみてください。